こんな方におすすめ
- 中国ドラマを「恋愛」や「宮廷」以外の視点で楽しみたい人
- 地方文化や方言、生活風景に興味がある人
- 女性の生き方や時代の変化をテーマにした作品が好きな人
近年、中国ドラマ界では再び「農村」「地方」「時代劇」といったテーマを扱う作品が注目を集めています。かつては都市部の恋愛ドラマや現代サスペンスが主流でしたが、ここに来て“過去”や“地方”を舞台にした人間ドラマが人気を取り戻しています。特に話題となったのが、2025年に放送された『This Thriving Land(大地生光)』。山東省の農村を舞台に、女性の生き方と時代の変化を描いたこの作品は、若者の間でも「新しいタイプの時代劇」として話題になりました。
この記事では、こうした「農村×時代劇」ブームがなぜ起きているのか、その背景と社会的意味を探っていきます。
目次
地方文化の再評価――“田舎”がドラマの舞台に戻ってきた理由
これまで中国の映像作品では、北京・上海・深圳といった都市部の生活や恋愛が圧倒的に描かれてきました。しかし近年、観光地化された地方や農村を舞台にしたドラマが増えています。
『This Thriving Land』では、山東省の農村の方言、祭り、建築様式、生活風景などがリアルに再現され、まるでドキュメンタリーのような質感を生み出しました。視聴者の間では、「都会では見られない人間の絆」「昔ながらの美しい風景」がSNS上で共感を呼び、放送地・日照市への観光客が増加するなど、作品が地域振興にも寄与しています。
この傾向の背景には、急速な都市化に対する“疲れ”があります。都会的で効率的な生活から距離を取り、自然と人情に満ちた地方の物語に癒しを求める層が増えた結果、制作側も「ローカル回帰」をテーマにするようになったのです。
女性の生き方と時代の変化――“農村時代劇”が投げかけるメッセージ
『This Thriving Land』の主人公は、1920年代から1980年代にかけて時代の波に翻弄されながらも、自らの手で生き方を切り開いていく女性。彼女の姿は、単なる「田舎娘の奮闘記」ではなく、“社会における女性の役割の変化”を象徴しています。
近年の中国ドラマでは、「従順」から「自立」へと変化する女性像が多く描かれており、農村という舞台はその変化を象徴的に表現できる場所となっています。
また、地方では依然として保守的な価値観が残るため、そこに生きる女性たちがどのように社会的制約を超えていくのか――というテーマが、都市の視聴者にも強い印象を与えています。
地方ドラマがもたらす“文化波及”――観光・言語・SNSの連動効果
面白いのは、こうした地方舞台ドラマが放送されると、その土地自体が「観光資源化」していく現象です。
山東省・日照では、『This Thriving Land』の撮影地がそのまま「ロケ地巡りコース」として整備され、現地方言を学ぶSNS動画も人気を集めています。
特に若者たちが「懐かしいのに新しい」「方言がかわいい」といった感想を投稿し、方言や郷土料理、伝統衣装などが“再発見”されているのです。
つまり、この種の作品は単なる娯楽ではなく、地域文化のブランディング装置としての役割も果たしているといえます。
🎥 作品概要
タイトル: This Thriving Land
公開年: 2025年
監督: 張曉波(Zhang Xiaobo)
主演: 趙麗穎(Zhao Liying)、王凱(Wang Kai)、劉琳(Liu Lin)
舞台: 山東省・日照市(1920年代〜1980年代)
ジャンル: 歴史ヒューマンドラマ/農村群像劇
話数: 全40話
🌾 あらすじ
物語は、山東省の農村地帯で生まれ育ったヒロイン・李瑞霞(演:趙麗穎)の人生を軸に展開します。
1920年代、封建的な価値観が色濃く残る村に生まれた彼女は、戦争や政治改革、農業集団化といった激動の時代を生き抜きながら、やがて村のリーダー的存在へと成長していきます。
物語は彼女の半生を通して、「土地」と「人間」の関係、そして女性たちの生き様をリアルに描き出しています。
農村を舞台にしながらも、単なる“田舎の美化”ではなく、貧困、家族間の対立、近代化の波に翻弄される姿などが丁寧に表現されている点が高く評価されています。
💬 見どころ①:女性の成長と社会変化を重ねた壮大な物語
『This Thriving Land』の最大の魅力は、一人の女性の人生=時代そのものの変化として描いている点です。
李瑞霞は教育を受けることも許されず、結婚も親が決める時代に生まれました。
しかし、彼女は学びを求め、農村の改革運動に加わり、自らの意思で生き方を選ぶようになります。
この流れは、まさに中国社会における女性の地位向上と解放の歴史を象徴しています。
また、主演の趙麗穎の演技が圧巻。彼女の“素朴さと芯の強さ”が、作品全体のリアリティを支えています。
🌿 見どころ②:方言・風景・生活描写のリアルさ
本作は「山東方言」を使用し、地元の農民をエキストラとして多数起用しています。
台詞の言い回しや服装、家の造り、農作業の描写に至るまで徹底したリアリズムが追求されており、
「映像の中に“土の匂い”がする」と称されるほど。
特に印象的なのは、四季の移ろいを通して村が変化していくシーン。
初期の乾いた土色の村が、やがて緑豊かな畑に変わる――このビジュアル表現がタイトル “Thriving(繁栄する)” を象徴しています。
🎬 見どころ③:地域ブランディングとしての“農村ドラマ”
『This Thriving Land』の放映後、実際の撮影地である山東省日照市では、ロケ地ツアーや郷土料理イベントが開催され、観光客が急増しました。
地元の若者が方言をSNSで紹介する「#日照話チャレンジ」も話題になり、地方文化がドラマを通じて再評価される現象が生まれています。
こうした「ドラマを通じた地域の活性化」は、韓国ドラマのロケ地ブームとも共通する現象であり、
今後の中国地方都市におけるプロモーションモデルとしても注目されています。
🧭 社会的背景とトレンド分析
『This Thriving Land』の成功は、中国社会の価値観の変化とも密接に関係しています。
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都会中心の成功物語よりも、“地に足のついた生き方”を描いた作品が求められている
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高度経済成長を経た今、“原点回帰”“文化的アイデンティティ”への関心が高まっている
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女性の自立・教育・地域社会での役割が、現代の若い視聴者にも響いている
つまり、これは単なる「懐かしさ」ではなく、過去を通して今の中国を見つめ直すドラマなのです。
🧭 まとめ
「地方×時代×女性」という組み合わせは、今の中国社会を映す鏡のような存在です。
経済発展の影で取り残された地域、変わることと守ることの狭間にある人間関係、そして女性の自立――。
こうしたテーマを農村時代劇という形で描くことで、視聴者は“過去を通して今を考える”という体験を得ています。
今後も地方文化を題材にした作品は、中国だけでなくアジア全体で注目されていくでしょう。